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自称ダンディ文豪(自称)
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僕は玄関の上がりに腰をかけると、足を振るようにしてゴム長靴を脱ぎ捨てた。ズボンのすそに入り込んだ雪が、押し固められて氷のようになっている。「うわ~、冷っこい!」手で叩いて払おうとするけど、頑固にこびりついた氷は容易には落ちない。「雪、すごかっただろ?どれ、雪取ってあげるから。」家の中からばあちゃんが出てきて、すその雪を丁寧に取ってくれる。「よし、家に入れ。」石炭ストーブの上では、やかんからしゅうしゅうと湯気が上がっている。ヤケドするほどストーブのそばに近寄ると、体のあちこちに忍び込んだ雪のかけらが音を立てて融けていくようだ。
「ばあちゃん、今日は何の日か知っている?」 「なんだろうね?ばあちゃんは分からないねぇ。」 「今日は『クリスマスイブ』だよ。」 「なんだい?そのなんとかいぶって?」 「ばあちゃん、『クリスマス』知らねぇの?サンタクロースがプレゼント持ってくる日だ。」 「ほぅ、そうだったかい。」 1969 年、日本が急速に豊かになってきた頃だと思う。田んぼが埋め立てられ新しい住宅が増えた。工業団地が建ち、道路が舗装され、テレビや冷蔵庫がどの家にも入り込んでいた。でも、田舎の山間に位置する僕の村では、時代の流れは少しだけゆっくり進んでいた。クリスマスの習慣は大人たちよりも子供たち、それも転勤族の子供たちから僕たちに伝わってきた。だからばあちゃんが知らないのも無理はない。 「友だちのカトちゃんが言ってたんだ。クリスマスになるとサンタクロースがやってきて、煙突から入って来て、 寝ている間にプレゼントを靴下に入れてくれるんだって。」 「だけど、家に人が入れるような煙突ないよ。」 「あ、そうだった・・・・。」 僕はがっかりした。どうして家にはサンタクロースが入れる煙突がないのだろう。これじゃぁ、サンタクロースが来ても家には入れない。もしかしたら僕だけがプレゼントもらえなくて、カトちゃんやアキラくんやアッちゃんがもらっていたらどうしよう。 「でも、欲しいものはお父さんに言ったんだろう?」 「うん。」 「それなら、来るよ。」 「そっか。」 ばあちゃんがそう言うなら、来るような気がしてきた。 「ばあちゃんはサンタクロースにお願い事した?」 「ばあちゃんはしてないよ。」 「なんで?」 「ばあちゃんは仏教だもの。」 そう言ってばあちゃんは、仏壇の鐘をチンと鳴らした。 1969 年の夏、日本中をトリコにしたのがアポロ11号の月面着陸だった。科学時代の幕開け、そんな見出しが新聞を賑わしていたが、子供の僕たちにとってそれはヒーロー物語に過ぎなかった。クリスマスに何が欲しい?お父さんにそう聞かれた僕はアポロのロケットが欲しいと言った。僕は朝になったら枕元にロケットが置いてあるシーンを想像して、クリスマスを心待ちにしていた。クリスマスイブになっても、ばあちゃんはいつものように仏壇に向かって線香を上げていた。 「ほら、ユウタもサンタクロース来るように、おじいちゃんに手を合わせなさい。」 ばあちゃんはいつものように仏壇を拝むように僕に言った。仏壇の中には戦争で死んだおじいちゃんの写真がある。子供心に、仏壇とクリスマスは会わないような気がして、いよいよ家にはサンタクロースが来ないんじゃないかと気が気ではなかった。やむなく、僕はおじいちゃんの写真に向かって、サンタクロースが無事家に来てくれるようにお願いしていた。 「ユウタ、ケーキ買ってきたよ。」 お母さんの声が聞こえた。 「どこ!どこ!」 「融けちゃうから冷蔵庫に入れておいたよ。」 ケーキとは言ってもその頃のケーキは近所の田中商店から買ってきたアイスで出来たケーキだった。バターケーキですらあまり見たことなかった。だから僕はどうやって固いアイスケーキにロウソクが立っているのかが不思議でならなかった。七面鳥なんて見たことも聞いたこともない。シャンメリーも知らなかった。そんなクリスマスだった。 「ただいま!」 お父さんの声が聞こえた。 「お父さん!お帰りなさい!」 僕は一目散に玄関先で雪を払っているお父さんに駆け寄った。 「おぅ、ユウタ。クリスマスのプレゼントだぞ!」 お父さんはビニールに包まれた箱を僕に渡した。 え・・・・? プレゼントはサンタクロースがくれるんじゃないの・・・・? 「お前の欲しがっていたアポロだぞ。」 やっぱり家には煙突がないから、サンタクロースさんは来てくれないの・・・・? 「ほら、開けてみな。」 僕は包みを開けてみる。箱から取り出して、僕は笑顔を作ってみる。 「うわー、これ欲しかったんだ。ありがとう。」 「良かったな。ユウタ。」 「良かったね。」 お父さんとお母さんが交互に言った。 でも、僕の欲しかったのはアポロのロケットなのに、お父さんが買ってきたのはアポロの月着陸船だった。やっぱり家にはサンタクロースは来ないんだ。だって家ではケーキのロウソクは仏壇のロウソク使っているし、煙突もないから。妙に浮かれているお父さんとお母さんの前では笑っていたけど、サンタさんが来ないことはやっぱり寂しかった。 次の日の朝、僕が目を覚ますと枕元に僕の靴下が置いてあった。なんだ?これは? 靴下の中をのぞいてみると、そこにはちり紙に包まれた千円札が入っていた。 「ばあちゃん、ばあちゃん。僕の枕元に靴下があったよ。」 「そうかい、きっとサンタクロースさんが来てくれたんだね。」 「でも入っていたの、お金だったよ。」 「きっとサンタクロースさんも忙しくてロケット買う時間が無かったんだよ。それで買いなさいってことなんじゃないかい。」 でも僕はそのちり紙のたたみ方はばあちゃんがお小遣いくれるときのたたみ方に似ていると思ったんだ。 でも、ばあちゃんがそう言うならそうかもしれないって思ったんだ。 「ばあちゃん。」 「なんだい?」 「やっぱりばあちゃんのところには、サンタクロースさん来なかったの?」 「来たよ。」 「え?サンタクロースさん見たの?どんな格好していた?」 「ばあちゃんのところに来たサンタクロースさんは、おじいちゃんの姿をしていたよ。 おじいちゃんとおばあちゃんは仲良くお話をしたんだよ。 大好きなおじいちゃんに会えたんだから、クリスマスっていうのも悪くないね。」 おばあちゃんはそう言うと、仏壇の鐘をチンと鳴らした。 1969年のクリスマス それは、ツリーもシャンパンもイルミネーションも七面鳥もないイブだったけれど、 きっと、じいちゃんに良く似たサンタクロースが、来てくれたんだと僕は思う。 だから僕は、 じいちゃんとばあちゃんの顔を思い浮かべながら、 心の中でチンと鐘を鳴らすよ。
by e_vans
| 2010-12-24 20:54
| Christmas CountDown
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